Bill Evansが語る〜ジャズの上達方法、クラシックとの歴史的な関わり〜
時間がある方は動画を見られることをお勧めします。
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まずは彼の経歴についてです。
経歴
ビル・エヴァンス(1929-1980)
本名ウィリアム・ジョン・エヴァンス、アメリカ合衆国ニュージャージー州生まれ。主にトリオをメインで活動した、ジャズピアニストです。”Waltz For Debby”が特に有名ですね。実は3歳になるエヴァンスの姪のために書いた曲なんです💌
さて、従来はトリオというとはドラムやベースはリズムセクションとして脇役的な扱いを受けていましたが、エヴァンスのトリオではそれぞれが独創的なインプロヴィゼーションで干渉し合ういわゆるインナープレイを実現し、トリオの新たな可能性を示した人物でもあります。
また、彼の演奏する和音はクロード・ドビュッシー、モーリス・ラヴェルなど印象派の影響を受け、彼自身が調和言語の主要な改革者としてみなされているようです。(海外の翻訳でわかりにくいですが、音楽理論の解釈を押し広げジャズに生かした人って感じでしょうか)
彼にはジャズに対する情熱だけでなく、音楽に対するインテリジェンスな面もありました。当時のジャズマンにとっては珍しい、モード(旋法)の理論に対して造詣が深かったそうで、実際、モードジャズをジャズに初めて取り入れたアルバム”Kind Of Blue”に出演しました。
他にも、彼は私生活ではかなりの読書家だったようで、特に哲学や機知に富んだ本が好みだったようです。例えば、プラトン、フロイト、サルトルなど。また東洋哲学にも関心があったようで、イスラム教や仏教、禅など東洋の宗教や思想に魅了されていたようです。
最後に彼が唯一最大の影響を受けた人物はバド・パウエルだそうです。
バド・パウエルについての記事についてはこちらを参照ください
heiyou2122123255.hatenablog.com
Bill Evans のYoutube動画
6分ほどあります、実際にジャズを勉強している方はもちろん、ジャズの歴史などに興味のある方には是非!ご覧いただきたい動画です。
ビルエバンスの考えるジャズという音楽の上達方法
(司会者がビル・エヴァンスについて説明するシーン①)
エヴァンスは”スタイルとは自ずから出来上がるもの”と主張しており、自分を真似るプレイヤーをあまりよく思わないようです。”誰にも独創的なインスピレーションが多かれ少なかれある”と考えているからです。
<解説>
後半で、彼はジャズを主体的、能動的な音楽であるとしており、プレイヤーに対しては自分で作曲するくらいの感覚を要求しているように思われます。
ただ、ここで彼が言いたいのは、曲を完璧にコピーすることも大事ではあるが、それ以上に”演奏者の意図”を理解することをジャズでは求められるだということです。例えば、シンプルにいえば、このフレーズは別の曲のこのコードに使える、などです。楽譜通りの、演奏に酔いしれるだけでなく、分析し、自分なりに活用できるスキルとして消化する。つまり、大事なのは自分で何かを生み出そうとするその能動的な姿勢を大切にして欲しいのだと私は考えます。
蛇足
このことに近い内容が他の本でもありました。(ある人物の回顧と考えてください)
私は盲目の天才ジャズピアニストアート・テイタムとある晩、彼のレコードの演奏を完璧に真似したプレイヤーの演奏を見て、私はその正確さにすっかり感心してしまった。
しかし、、アートは笑いながら相手にせずこう言った。
”彼は私がレコードの中で何をしたかはわかっているんだがなぜそうしたかはわかっていないね”
参考文献:ビリーテイラー著/古屋直己訳/ジャズ・ピアノの歴史/P16
( 司会者がビル・エヴァンスについて説明するシーン②)
まず重要なのは、基本的な理論をマスターすること
練習を重ねて、演奏に必要な筋肉をきたえることである。
技術と同時に頭脳も鍛錬しなければならない
<解説>
これはその通りですね、基本的な理論は知っておいた方が良いと思います。
ただ、基本的な理論を知っていてもそれを即実践できるようになるのには結構時間がかかります。知っているのと、できる、の間の壁は結構分厚いように思えます。
実践と理論の両輪が大切ですね。なので深い理論を知っているより、ちょっとの理論をかじっていてそれを極めた方が上達は早いのかなと感じます。
頭を使う練習としてよくあげられるのは例えば、ある曲を異なるキーで演奏するのとかですね、これは本当に頭を使います💦
(司会者がビル・エヴァンスについて説明するシーン③)
演奏する時、技術的に心配がなければ、音楽そのものに没頭できる
そうすれば、自己に内在する意識に即応した演奏ができる
これがジャズであり、人生であると言っている。
<解説>
偉大なジャズマンであるチャーリーパーカーは、”全て学び、そして全て忘れる”と言ったそうです。つまり、記憶することが大事なのではなく”意識しなくてもできるレベルになる”ことが
重要であるということです。そのためには基本的な練習をいかに五感を使って体に染み込ませながら繰り返し練習します。
(司会者がビル・エヴァンスについて説明するシーン④)
音楽に馴染みの薄い人はわかりにくいだろうから、自動車で説明すると
車を乗りたての頃はそれぞれの動作を別々に行うだろう。
そして徐々に動作をつなげられるようになり
最終的には意識せずに車を動かせるようになる、こんなイメージだ
クラシックの歴史と即興音楽
一般の人々が本物のジャズを聴く機会は少ないが
人々のジャズに対する考え方も本物ではない
<解説>
つまり”大衆の抱くジャズに対するイメージと本物のジャズのイメージとが乖離している”ということを、エヴァンスは言いたいのでしょう。
だが、ここ数世紀の中では芸術分野の中でジャズだけが、アメリカで生まれ世界に紹介された唯一のものである。しかしジャズはクラシック音楽の歴史を、なぞっているとも言える。
17世紀のクラシック音楽は即興がもてはやされたんだ。
当時は録音技術がなく音楽を永久的に保存する方法がほとんどがなかった。だから、譜面にするしかなかった。やがて音楽は楽譜をいかに解釈するかになり、的確な解釈と知的な構成がクラシックの主流となり、即興的側面は消えてしまった。今いるのは作曲者と解釈者だけだ。
<解説>
ここではジャズとクラシック、別の音楽とみなされる両者が
実は地続きであると、彼は主張しています。
17世紀のクラシック音楽には即興的な要素が大きかったが
その演奏を現代に残す方法は当時は無く、譜面におこすしかなかった。
ところが、だんだんクラシックの音楽は楽譜をいかに正確に解釈して
作曲者の思いを汲んで演奏できるかということになった。
(実際、大学のクラシックピアノの授業では演奏したい曲の時代背景や題名の意味などを、演奏前に発表するなどしていたので、事実そうなんだろうと思います。)
作曲家が即興を入れることは非常に稀だし18世紀の頃はその必要もなかった。
ジャズも同じような経過をたどり
今やジャズは形式(スタイル)であると考える人の方が多くなった。
だが、ジャズは作曲の過程そのものなんだ
1分の音楽を1分で作曲するということだ
クラシックは1分の音楽を3ヶ月かけて作ったりする
そこだけが違うんだ。
<解説>
18世紀になると、クラシックから即興的な側面は消え失せたが、
同様にジャズも同じ道をたどっていると、エヴァンスは主張します。
ジャズが形式的、つまりただのジャンルとしてのジャズしかないと
一般的なジャズというと確かに管楽器とアコースティックな楽器の小編成のバンドでの譜面の演奏で十分、事足りるかもしれません。ところが本来は1分で1分の曲を作ると言った、すなわち即興演奏が重要である。クラシックとジャズにはそういう意味で境目はないのだということですね。
ところが歴史的な背景を考えるとジャズは、アメリカの音楽や文化の影響を受けた音楽であり
その意味では形式的と言える。否定はしないが決して忘れてはならないのが、ジャズは自然発生的な創造の過程そのものだということだ。
即興すなわち瞬間を音楽に表現できる人たちはジャズ奏者と同じだ
形式ではないんだ、僕はそう思っている
<解説>
僕自身もジャズという音楽の起源として黒人のブルース的な要素を尊重することは重要であると思います。しかし、必ずしも村社会的なセッションのルールに縛られるものではないと思っていて、歌謡曲でもポップスでもゲーム曲でもジャズとして扱うことは可能だと思います。
創造の過程としてのジャズで一番スリリングなのは、録音したレコードを後で聞くことだ
録音中の出来事を聞いてびっくりすることがある。
これは面白いことだが、優秀な作曲の先生ほど
もちろんクラシックだが、音楽は即興的に響かなくてはならないと生徒に教えている
つまり、芸術的な音楽というのは自発的な要素がなければならないんだ。
だからこそジャズはスリリングなんだ。
音楽を自発的に作れるんだからね。
最後に
かなり、長くなりましたが💦いかがでしたでしょうか?
私自身、ジャズが今や生活の一部であり音への探求心が強い人間です。
前半の部分は音楽以外でも活かせそうな気がしますね。
改めて、みてみましたがアドリブの上達に関してはあくまでエバンス個人の意見であることに気をつけなくてはいけないなと感じました。エバンスですら自分の演奏に自信がなかったため、色々な理論を学ぶようになったと言います。
ホレスシルヴァーなどは、もちろん理論を学んでいることは確かですが、キャッチーで親やすいアドリブが見どころであります。また、ビバップのころの演奏者は実際に口でアドリブを口ずんで、それを鍵盤で鳴らしていたとも言われています。
ジャズの習得方法は人それぞれであるとも言えるでしょう。これがジャズの面白いところでもあります。
皆様の少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで見ていただきありがとうございました。
それではまた!